板金塗装とは、主に自動車や建築物などに使われる金属部分に生じた損傷や歪みを補修・修理し、元の状態に戻す技術職です。特に自動車板金塗装は、事故や経年劣化で発生した車体の凹みや傷を修理し、美観を回復させる重要な役割を担います。単なる外見の修復に留まらず、金属そのものの強度や安全性を確保するための技術力も求められます。
自動車板金塗装の場合、作業は以下のように進められます。
- 損傷部分の確認と修理方針決定
損傷箇所の大きさや深さを確認し、板金作業のみで対応可能か、それとも部品交換が必要かを判断します。ここで求められるのが「損傷診断」のスキルです。表面的な傷だけではなく、内部のフレーム歪みまで見抜く目が必要です。
- 板金作業(修理・成形)
凹みや歪みを元の形状に戻すために、専用の工具を用いて金属を叩いたり引っ張ったりして形を整えます。近年は「デジタル計測器」を用いた精密な修復が求められる場面も増えています。
- パテ処理と下地作り
板金作業後に微細な凹凸を整えるためにパテを盛り付け、乾燥後にサンダーで丁寧に研磨します。この工程で仕上がりの美しさが大きく左右されるため、熟練の技術が求められます。
- 塗装作業
パテ処理後、塗装ブースで周囲の環境に左右されない清潔な空間を確保し、専用スプレーガンで塗料を吹き付けます。色合わせも重要な工程であり、既存の塗装色に完璧に馴染ませるためには、色見本や調色機を駆使するスキルが必要です。
- 磨き・仕上げ
塗装が完了したら、塗膜を美しく整えるためにコンパウンドを使った磨き作業を行います。ここでは「鏡面仕上げ」と呼ばれる美しいツヤ感を出す技術が重視されます。
板金塗装の作業工程一覧(自動車分野)
工程
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主な作業内容
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必要スキル・資格
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損傷診断
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損傷箇所の確認・修理方針決定
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損傷診断スキル・メーカー講習受講
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板金修理
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凹み・歪みの修復
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金属加工技術・溶接技術
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パテ処理
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表面成形・下地作り
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パテ成形スキル・研磨技術
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塗装
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調色・塗装・乾燥
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調色技術・塗装技能士資格推奨
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磨き
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コンパウンド研磨・仕上げ
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磨き仕上げスキル・専用機器操作
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このように、板金塗装の現場では複数の工程に分かれ、それぞれ専門的な技術が必要です。未経験からでもスタートは可能ですが、全工程を一通り習得するには最低3年〜5年程度の実務経験が求められることが一般的です。
また、近年では電気自動車(EV)やハイブリッド車の普及により、特殊素材(アルミニウム・樹脂パネルなど)への対応力も重要視されています。鉄板に比べて加工難易度が高い素材も増えているため、素材特性を理解したうえで適切な修理方法を選択する能力が不可欠です。
加えて、保険会社やディーラーとの連携も業務の一部です。事故車両の修理見積もり作成や、保険会社への修理報告など、事務的な業務を担当するケースも増えています。技術力だけでなく、円滑なコミュニケーション能力も求められる職種といえるでしょう。
未経験からスタートする場合、最初は洗車や部品取り外しなどのサポート業務を担当しながら、先輩職人の作業を見て学ぶ形が一般的です。業務を通じて工具の名称や使い方を覚え、徐々に板金・塗装の実作業に携わるステップアップが求められます。
実際に「見て覚える」「触って覚える」現場文化も根強く、未経験でもコツコツ技術を磨く意欲が重要です。確かな技術を身につければ、将来的には独立開業も視野に入れることができます。